「脱成長」系の本 一覧

 

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「脱成長」系の書籍

① 人新世の「資本論」(斎藤幸平)

出版:2020年  オススメ度:★★★★★

 「新書大賞2021」を獲得し、日本に「脱成長」のプチブームを巻き起こした一冊であり、新進気鋭の経済思想家が、地球環境に対する強い危機感をもって著した警世の書。私たちの生活の基盤となっているグローバル経済や資本主義の限界や矛盾を示し、晩期マルクスの思想に着目することで、脱成長コミュニズムという社会のあり方を提案する内容。経済に関する専門知識がなくても難なく読むことができ、資本主義が助長する環境破壊に少しでも疑問を感じている人であれば、非常に興味深く読むことができる。「脱成長」の必然について学ぶための取っ掛かりとなる良著。

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『人新世の「資本論」』読了 - 社会人ドクターの自己陶冶部屋

 

② 脱成長(セルジュ・ラトゥーシュ

 出版:2020年  オススメ度:★★★★☆

脱成長運動の発生源であるフランスにて、脱成長論をリードしてきた経済哲学者が2019年に著した一冊。著者はこれまでに何冊もの「脱成長」系の書籍を残しており、本作はその集大成的な作品。免罪符的に利用されている「持続可能な成長」という概念を否定し、自己制御、分かち合い、贈与の精神に溢れる「節度ある豊かな社会」への移行の必然性が説かれている。「節度ある豊かな社会」の万能なモデルは存在せず、各地域がその歴史的、政治的、地理的、文化的背景にあった再ローカリゼーション(≒脱グローバリゼーション)を遂げることが必要とされている。フランスの哲学者が書いていることもあり、多少難解な部分があるが、150頁ほどしかないためすぐに読み終わる。

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セルジュ・ラトゥーシュ『脱成長』読了 - 社会人ドクターの自己陶冶部屋

 

③ ドーナツ経済学が世界を救う(ケイト・ラワース)

 出版:2018年  オススメ度:★★★★☆ 

経済学者でありながら従来のGDP成長を追求する経済学に強い不信感を抱き、貧困問題や環境問題に取り組むためには発想の転換が必要だとして脱成長を支持する著者が、ドーナツ経済学という新しい考え方を提案するために著した書。とはいえ著者は、国連の持続可能な開発計画の主要報告書の作成にも携わっており、上に挙げた2冊の著者と比較すると現行の資本主義にも肯定的で、資本主義や市場経済は利用できるところはうまく利用しながら、その暴走を抑制するような仕組みを構築することが重要だとされている。経済学的な知識がなくても楽しく読めるように効果的に図表を活用するなどの工夫がなされているが、400頁ほどある。

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『ドーナツ経済学が世界を救う』レポート - 社会人ドクターの自己陶冶部屋

 

④ 経済成長主義への訣別(佐伯啓思

 出版:2017年  オススメ度:★★★★★

脱成長を指向する多くの書籍が「環境破壊に対する危機感」から出発しているのに対し、本書の特徴は、「人間とは何か?」という形而上学的な問いから出発しているところにある(環境問題についてはほとんど扱われていない)。そして、「人間とは何か?」を追求する延長線上で、経済成長主義が人間の本質とは調和しがたいロジックによって成り立っていることを経済学的に、かつ多角的に論じている。なお、あくまでも本書の目的は経済成長主義の批判にあるため、脱成長を進めるための政策や、目指すべき社会の理想像については、抽象的な提案しかなされていない。著者が経済学者(京都大学名誉教授)ということもあり、ところどころ経済学的な知識がないと読みにくい部分があるが、経済学者だからこそ書ける納得の内容。

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『経済成長主義への訣別』(佐伯啓思)読了 - 社会人ドクターの自己陶冶部屋

 

⑤ スモール イズ ビューティフル(E. F. シューマッハー

 出版:1986年  オススメ度:★★☆☆☆

1911年のドイツに生まれた著者は、世界大戦後、化石燃料を動力として成長を続ける石炭産業に20年間従事したことで、現代文明が孕む根底的な問題を捉え、1986年に本書を出版した。この本を読んでわかるのは、「経済成長の追求」に対する批判的な意見は少なくとも35年前にはあったということ。経済的価値ばかり重視して工業やら農業やらを設計していたら、社会は長続きせず、人間は人間らしさを失うことになる、という今日再び注目度の高まっている論件が扱われている。とりわけ、オートメーション化によって多くの人(特に貧しい国の人)が仕事を奪われ、人間らしく生きる機会を奪われていることが問題視されており、人間と環境との関係性を見直す必要性が説かれている。副題は「人間中心の経済学」だが、むしろ哲学的・宗教的な色が濃い。多少古めかしさがあり、何を言いたいのだかわからない部分もあるが、それでも読み応えのある一冊。

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『スモール イズ ビューティフル』読了 - 社会人ドクターの自己陶冶部屋

 

⑥ なぜ、脱成長なのか(ヨルゴス・カリス他)

 出版:2021年  オススメ度:★★★☆☆

脱成長の最先端都市バルセロナを生活の拠点とするヨルゴス・カリス教授が、志を同じくする3人の研究者と執筆した共著書。上に挙げているような脱成長系の書籍を読んだ人にとっては、目新しいことは特に書かれていないが、著者4人が脱成長系の論文を書き続けてきた研究者であることから、数多くの脱成長に関する学術論文が出典元として挙げられており、この分野の潮流・展望が素人にもわかるように噛み砕かれた形で書かれている。ただ、著者4人の意見が重なり合う部分のみが執筆されているようであり、議論を呼ぶような先鋭的な内容は見当たらず、マイルドな仕上がりになっている。また、全体が200頁あるうちの巻末30頁ほどが「脱成長に関するよくある23の質問への回答」と題されたQA方式の付録になっており、脱成長に対して懐疑的な意見を持つ人に一読していただきたい内容。

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ヨルゴス・カリス他 『なぜ、脱成長なのか』 読了 - 社会人ドクターの自己陶冶部屋

  

⑦ 人口減少社会のデザイン(広井良典

 出版:2019年  オススメ度:★★★★★

経済に限らない幅広い分野を研究対象とする京都大学教授の著作。「人口減少社会のデザイン」が題名通りテーマに据えられ、それについてコミュニティ再生や社会保障、医療などの個別領域にそくして考察されている一方、他方では資本主義や人類史といった大きなスケールの中での意味や展望が論じられており、筆者の見識の深さが窺える。都市集中の流れを地方分散に変えていくべきだというのが筆者の主張であり、まずは地域の中でできる限り食糧やエネルギーを調達し、かつヒト・モノ・カネが地域内で循環するコミュニティ経済をつくっていくことが理想とされている。脱成長について経済学的に論じられているわけではないが、人口や経済の「拡大・成長」を志向する従来の発想から抜け出すべきだという思想が全体に伏流している。豊富な図表が用いられており説得力がある上、具体的な提案も数々なされており、かなりオススメの一冊。

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広井良典『人口減少社会のデザイン』感想 - 社会人ドクターの自己陶冶部屋

 

⑧ 日本再生のための「プランB」(兪炳匡)

 出版:2021年  オススメ度:★★★★☆

ハーバード大学医学部を卒業後、カリフォルニア大学医学部などで教鞭をとっていた筆者が、医学的な視点に限らず多角的に社会の再生について論じる斬新な一冊。筆者は、日本が突き進もうとしている「経済成長による日本再生路線」をプランA、「今後、世界全体が時間をかけて移行していくであろう新しい持続可能な社会・経済システム」をプランCとして、AからCへの移行を助ける段階をプランBと呼び、このプランBについて本書で詳述している。多くの脱成長を謳う書籍が、プランCの必要性を論じるかたわらプランAからCへの移行過程については抽象的にしか論じていなかったのに対し、本書はその移行過程に着眼している。副題に「所得倍増計画」とあるが、これは経済成長によって達成するのではなく、地方への移住によって達成できるとされている。「地域経済を循環させる上で予防医療教育の導入が重要である」という主張など、アメリカに長く居住した筆者だからこそ提言できる内容に満ちており、オススメの一冊。

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『日本再生のための「プランB」』読了 - 社会人ドクターの自己陶冶部屋

 

⑨ 閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済(水野和夫)

 出版:2017年  オススメ度:★★★★☆

前著『資本主義の終焉と歴史の危機』で注目を集めた経済学者水野和夫が、前作から引き続き金利の下落をもとに資本主義の限界を論じつつ、今後の世界のあり方に踏み込んだ一冊。著者によれば、資本主義を動力としていた16世紀以降の近代社会が、蒐集の対象であるフロンティアの消滅により立ち行かなくなったことの帰結が「ゼロ金利」である。このゼロ金利というのはネガティブな状態ではなく、成長を追い求めなくても豊かな生活を享受できるようになった望ましい状態であり、今後は「より近く、よりゆっくり、より寛容に」をスローガンとしてゼロ金利を受け入れていく必要があると著者は訴えている。今後の方向性としては、世界がいくつかの閉じた帝国に分立し、その帝国の中でいくつかの定常経済圏ができることが望ましいとされている(日本も近隣国と帝国を形成し、国内では5つか6つ程の定常経済圏を創出すべきとされている)。時代の趨勢を長期的な視点で的確に論じた良著。

 

「脱成長」を理解するうえで助けとなる書籍

① ゆたかな国をつくる(宇沢弘文

 出版:1999年  オススメ度:★★★★☆

 宇沢は、新自由主義的な市場原理主義者が名を連ねるシカゴ大学にて教授として在籍していた期間もありながら、自由市場を部分的に否定する持論を展開し、日本人でもっともノーベル経済学賞に近づいたと評される人である。彼は、資本主義に管理を委ねるべきでない「社会的共通資本」について数多くの著書で論じており、本書はそのひとつの集大成的な作品(「社会的共通資本」とは宇沢の造語であり、彼の思想を代表する概念)。自然環境やインフラ、さらには教育や医療などが社会的共通資本にあたり、これらは安定的かつ持続的な社会を維持するための共有財としての性格を持つため、市場に管理を委ねたり、官僚専権に管理を委ねたりしてはいけないことが強弁されている。社会的共通資本をないがしろにするとどんな災禍が訪れるのかが数々の実例とともに紹介されており、鬼気迫る一冊となっている。

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宇沢弘文『ゆたかな国をつくる』読了 〜社会的共通資本とは〜 - 社会人ドクターの自己陶冶部屋

 

② コモンの再生(内田樹

 出版:2020年  オススメ度:★★★☆☆

 数多の著作を世に送り出している人気作家が、未来のあり方を探った一冊。コモンとは共有地や共有財のことであり、なんでもかんでも市場を介して買うのではなく、みんなで共有管理することの大切さを著者は説いている。たとえば育児にしてみても、著者は自身が館長を務める「凱風館」に育児コミュニティをつくり、ママさんたちが集まって互いに助け合える場所としている。こういった取り組みはGDPを増やさないため経済成長に貢献するわけではないが、人々の生活を豊かであたたかみのあるものにしてくれる。本書ではコモンについてのみ論じられているわけではなく、現代社会を考察するための多岐にわたるトピックが取り上げられているため、純粋に「脱成長」系の本を読みたい読者には期待はずれとなるかもしれない。同著者による『ローカリズム宣言』や『人口減少社会の未来学』などもおもしろい。

 

③ 資本主義から脱却せよ(松尾匡井上智洋、高橋真矢)

 出版:2021年  オススメ度:★☆☆☆☆

松尾と井上は経済学者、高橋は現役不安定ワーカーを自称するフリーターであり、3者が代わる代わる章を執筆する形式で構成されている(両経済学者の思想が多少難解なため、高橋の章がところどころで導入的に使われている)。「資本主義から脱却せよ」という題名から想像されるような「脱成長」を指向する内容ではないが、資本主義が孕む問題についての理解は深まる。現行の経済に安定と公平さを求めるには、「民間銀行が行う信用創造の廃止」と「政府による支出の増大」が必要だとされている。民間銀行の信用創造は、利益(貨幣発行益)を一部の資産家に帰着させる仕組みであるとして批判されており、それを廃止して政府から個人への支出を増やすことで、国民に利益を帰着させるべきだとしている。上に並べた書籍と比較して切り口はだいぶ異なる。経済学的に非常に具体的な提案がなされているが、だからこそ専門的で難しい部分がある。たいしてオススメはしない。

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『資本主義から脱却せよ』読了 - 社会人ドクターの自己陶冶部屋

 

④ リニア中央新幹線をめぐって(山本義隆

 出版:2021年  オススメ度:★★★★☆

リニアをめぐるこれまでの経緯を数々の書籍や新聞記事から丁寧に分析し、なぜいくつもの問題(莫大なコスト、自然破壊、原発への依存、安全面の不安等)を抱えながらも敷設が強行されてきたのかを暴く良著。アルプス山脈を貫くトンネルに関して、JR東日本の元会長が「俺はリニアは乗らない。だって、地下の深いところだから、死骸も出てこねえわな」と堂々公言するほど、リニアが安全性に欠けていることなどに衝撃を受ける。著者は、問題の根底には経済成長至上主義に囚われた政官財の利権構造があることを指摘しており、「脱成長と定常型社会の展望」と題した節を設けるなど、脱成長に肯定的な考え方を示している。「リニアって本当に必要なの?国が無理やり推進してるだけじゃないの?」と少しでも疑問を抱いている人に是非読んでいただきたい一冊。

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闇に満ちたリニア建設の暴露本『リニア中央新幹線をめぐって』要約しました - 社会人ドクターの自己陶冶部屋

 

⑤ わら一本の革命(福岡正信

 出版:1983年  オススメ度:★★★★☆

できる限り人間の手を加えず自然のままに農作物を育てる「自然農法」。そのパイオニアでもあり、アジアのノーベル賞と呼ばれるフィリピンのマグサイサイ賞を獲得した福岡の代表的な著作。前半では自然農の方法論が説かれており、後半では「自然農がいかに人間にとって本質的か」という持論が展開されている。資本主義に寄り添ってビジネス化してしまった農業への批判を含んだ思想書的な趣が強く、農業に携わったことのない人でも興味深く読むことができる。最近注目を集めている「脱成長」の考え方とも重なり合う部分が多く、近代の科学の発展に疑問を抱く人には特におすすめの一冊となっている。ちなみに自然農法とは、不耕起、無肥料、無農薬、無除草を柱とし、あれもこれもしたほうがいいのではないかと考える従来の農業とは対極にある、あれもしなくていいんじゃないか、これもしなくていいんじゃないかというスタンスの農業。

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福岡正信『わら一本の革命』 ~自然農法は脱成長と通ずる~ - 社会人ドクターの自己陶冶部屋

 

 

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脱成長は「脱炭素」とも無関係ではありません。「脱炭素」についてはコチラのサイトをどうぞ。

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